肉月~ニクツキ42
虫の鳴く音が響き、共鳴している。
青空には雲一つない。ひどく暑い日。
鉄筋コンクリートで出来た校舎の中も
じんわりとした暑さが充満していたが、
この場所はエアコンが設置され涼しい。
学校のコンピュータ教室。
放課後に学校に残り、体育祭の準備を
しているのは、田中悠(168*110*16)。
「はぁ‥‥、いくら僕らが部活に
所属してないからってこんなに仕事が
いっぱいだと大変だなぁ…」
悠は、ため息混じりに言うと、
パソコンのキーボードをかなり不慣れな
手つきでタイプしていく。
そんな悠を見ながらニコリと笑顔で
答えたのは先日、悠のクラスに転校してきた
青野啓(167*112*16)という少年。
「そうだね、父母や参加者に配る
プログラム作りまで僕らの
手作りとはね。まぁ、ささっと仕上げて
早く帰ろうよ。」
そう言うと青野啓は、悠の倍以上も素早く
キーをタイプし作業を進めていく。
青野は悠とそっくりな体型をしており、
自然な長さの黒髪に、透き通るような
白い肌。少しだけ太めの眉。
黒縁メガネがとても良く似合っている。
この転校生の青野は、
体育祭の準備は実行委員である悠と、
相田宗助(165*100*16)の仕事なのだが、
自分にも手伝わせて欲しいと言うのだ。
作業の煩雑さと多さに困っていた悠と宗助は
彼の申し出を断るはずもない。
今日は悠と青野啓がコンピュータ室で
プログラム作りをし、
宗助が当日のBGM準備の為に放送室で
音楽編集をそれぞれにしている。
コンピュータ室で二人、作業を進める
悠と青野。しばらく作業をしていると、
青野が暑そうに、胸元のボタンを外す。
するとムッチリとした胸元や太い首が
ちらりと見え隠れする。
悠はその光景に吸い込まれるように
見入ってしまったが、はっと我に返り、
すぐにモニターに視線を戻す。
そして、相田宗助が好きなのに
他の人間にも惹かれてしまう自分を
強く恥じながら、心の中で叫ぶ。
「僕のバカ!!」
しかも青野は最近知り合ったばかりとはいえ
宗助と同じクラスメイトで良い友人だ。
そんな相手にすら魅力を感じている自分。
悠は煩悩を払うように頭を振った。
だが、そんな悠の手に、温かくて柔らかな
感触がする。青野が手を握っていたのだ。
突然のことにビクッと肩を震わせる悠。
ニコリと笑って青野が言う。
「そうやっているから遅いんだよ…。
こういう時はマウスじゃなく
キーボードのココを…。」
説明しながら、悠の指を指定のキーの上に
導いていく。悠の太い腕と指に、
とても優しく触れながら。
どんどん鼓動が高まる悠。
悠は青野の白くて、ムチムチした腕を
見つめながら、青野が転校してきた日を
思い出していた。あれは数日前。
校舎の花壇の一画に咲き誇る、
紫陽花の青い花々を濡らす、
大粒の雨が降る朝。
学校に吸い込まれるように登校してくる
傘たちを教室の窓から見下ろしていた
田中悠。
校舎全体に鳴り響くチャイムの音。
担任教師が教室にやってくる。
毎朝の光景。多くの生徒が気だるい朝を
眠そうにしている。悠も眠くはないが、
<何も変わらない、いつもの朝>を
感じながら、窓の外を眺めたままだった。
だから悠はすぐには気づく事が
できなかった。担任教師の後について、
一人の見慣れぬ男子生徒が教室に
入ってきた事に‥‥。
生徒たちが何やら口々に話し始めた。
「転校生だ‥‥。」
生徒たちのざわめきの中から、
その言葉が悠の耳に飛び込んできて、
不意に教壇の方へと視線を向ける。
そこにはいつもの担任教師と、
一人の生徒がいた。
その生徒は身長も体型も悠と
ほぼ変わらない。
自然な長さの黒髪で、
肌がとても白い。
脂肪がついて、柔らかそうな頬は
男子とは思えないほど、もち肌。
体型は制服の上からでも曲線的で
ムチムチとしている。
メガネのせいだろうか。
優しそうで知的、あるいは
文化系の印象も受ける。
ガヤガヤと騒めく生徒たちを静めて
担任教師が言う。
「今日から一緒に勉強することになった……
おぉ、いかんいかん!。
やはり自己紹介は自分でしてもらおうか。」
黒縁メガネの生徒は不安そうな表情を
浮かべながらも絞り出すように話し始める。
「……あ、青野‥啓です。
よ、よろしくお願いします。」
青野の挨拶のあとに1名が
手を叩く音がすると、吊られるようにして
教室の全員が手を叩いて拍手が起こる。
悠もなんとなく、手を叩いていたが、
その時。……悠は転校生、青野啓に、
自分が見られている様な気がした。
悠は過去に青野という知り合いがいたか、
記憶を探ったがそういう知り合いは
思い当たらない。……自分の勘違いか?
そう、‥‥きっとそうだ。
教室の全員を見渡しているのだ。
悠は瞬間的に感じた違和感をすぐに
自分の中で打ち消してしまった。
校舎の外では雨は強さを増しており、
道路脇にある側溝からは、泥水が溢れ出て
道路を冠水させていた。
「田中君、ちゃんと聞いてる?大丈夫?」
青野の声で悠は、我に返る。
「‥だ、大丈夫だよ、ちょっと…ね。」
心配そうな表情の青野に悠は笑顔で応える。
すると青野がまだ握っていた悠の手を
そっと離して、悠の後頭部に触れる。
触れながら自分の額に手をかけ前髪を上げて
悠と自分の額をくっつけた。
至近距離に近づいた二人の顔。
悠はすでに思考が停止し、ただ目の前の
青野をドキドキしながら見つめていた。
青空には雲一つない。ひどく暑い日。
鉄筋コンクリートで出来た校舎の中も
じんわりとした暑さが充満していたが、
この場所はエアコンが設置され涼しい。
学校のコンピュータ教室。
放課後に学校に残り、体育祭の準備を
しているのは、田中悠(168*110*16)。
「はぁ‥‥、いくら僕らが部活に
所属してないからってこんなに仕事が
いっぱいだと大変だなぁ…」
悠は、ため息混じりに言うと、
パソコンのキーボードをかなり不慣れな
手つきでタイプしていく。
そんな悠を見ながらニコリと笑顔で
答えたのは先日、悠のクラスに転校してきた
青野啓(167*112*16)という少年。
「そうだね、父母や参加者に配る
プログラム作りまで僕らの
手作りとはね。まぁ、ささっと仕上げて
早く帰ろうよ。」
そう言うと青野啓は、悠の倍以上も素早く
キーをタイプし作業を進めていく。
青野は悠とそっくりな体型をしており、
自然な長さの黒髪に、透き通るような
白い肌。少しだけ太めの眉。
黒縁メガネがとても良く似合っている。
この転校生の青野は、
体育祭の準備は実行委員である悠と、
相田宗助(165*100*16)の仕事なのだが、
自分にも手伝わせて欲しいと言うのだ。
作業の煩雑さと多さに困っていた悠と宗助は
彼の申し出を断るはずもない。
今日は悠と青野啓がコンピュータ室で
プログラム作りをし、
宗助が当日のBGM準備の為に放送室で
音楽編集をそれぞれにしている。
コンピュータ室で二人、作業を進める
悠と青野。しばらく作業をしていると、
青野が暑そうに、胸元のボタンを外す。
するとムッチリとした胸元や太い首が
ちらりと見え隠れする。
悠はその光景に吸い込まれるように
見入ってしまったが、はっと我に返り、
すぐにモニターに視線を戻す。
そして、相田宗助が好きなのに
他の人間にも惹かれてしまう自分を
強く恥じながら、心の中で叫ぶ。
「僕のバカ!!」
しかも青野は最近知り合ったばかりとはいえ
宗助と同じクラスメイトで良い友人だ。
そんな相手にすら魅力を感じている自分。
悠は煩悩を払うように頭を振った。
だが、そんな悠の手に、温かくて柔らかな
感触がする。青野が手を握っていたのだ。
突然のことにビクッと肩を震わせる悠。
ニコリと笑って青野が言う。
「そうやっているから遅いんだよ…。
こういう時はマウスじゃなく
キーボードのココを…。」
説明しながら、悠の指を指定のキーの上に
導いていく。悠の太い腕と指に、
とても優しく触れながら。
どんどん鼓動が高まる悠。
悠は青野の白くて、ムチムチした腕を
見つめながら、青野が転校してきた日を
思い出していた。あれは数日前。
校舎の花壇の一画に咲き誇る、
紫陽花の青い花々を濡らす、
大粒の雨が降る朝。
学校に吸い込まれるように登校してくる
傘たちを教室の窓から見下ろしていた
田中悠。
校舎全体に鳴り響くチャイムの音。
担任教師が教室にやってくる。
毎朝の光景。多くの生徒が気だるい朝を
眠そうにしている。悠も眠くはないが、
<何も変わらない、いつもの朝>を
感じながら、窓の外を眺めたままだった。
だから悠はすぐには気づく事が
できなかった。担任教師の後について、
一人の見慣れぬ男子生徒が教室に
入ってきた事に‥‥。
生徒たちが何やら口々に話し始めた。
「転校生だ‥‥。」
生徒たちのざわめきの中から、
その言葉が悠の耳に飛び込んできて、
不意に教壇の方へと視線を向ける。
そこにはいつもの担任教師と、
一人の生徒がいた。
その生徒は身長も体型も悠と
ほぼ変わらない。
自然な長さの黒髪で、
肌がとても白い。
脂肪がついて、柔らかそうな頬は
男子とは思えないほど、もち肌。
体型は制服の上からでも曲線的で
ムチムチとしている。
メガネのせいだろうか。
優しそうで知的、あるいは
文化系の印象も受ける。
ガヤガヤと騒めく生徒たちを静めて
担任教師が言う。
「今日から一緒に勉強することになった……
おぉ、いかんいかん!。
やはり自己紹介は自分でしてもらおうか。」
黒縁メガネの生徒は不安そうな表情を
浮かべながらも絞り出すように話し始める。
「……あ、青野‥啓です。
よ、よろしくお願いします。」
青野の挨拶のあとに1名が
手を叩く音がすると、吊られるようにして
教室の全員が手を叩いて拍手が起こる。
悠もなんとなく、手を叩いていたが、
その時。……悠は転校生、青野啓に、
自分が見られている様な気がした。
悠は過去に青野という知り合いがいたか、
記憶を探ったがそういう知り合いは
思い当たらない。……自分の勘違いか?
そう、‥‥きっとそうだ。
教室の全員を見渡しているのだ。
悠は瞬間的に感じた違和感をすぐに
自分の中で打ち消してしまった。
校舎の外では雨は強さを増しており、
道路脇にある側溝からは、泥水が溢れ出て
道路を冠水させていた。
「田中君、ちゃんと聞いてる?大丈夫?」
青野の声で悠は、我に返る。
「‥だ、大丈夫だよ、ちょっと…ね。」
心配そうな表情の青野に悠は笑顔で応える。
すると青野がまだ握っていた悠の手を
そっと離して、悠の後頭部に触れる。
触れながら自分の額に手をかけ前髪を上げて
悠と自分の額をくっつけた。
至近距離に近づいた二人の顔。
悠はすでに思考が停止し、ただ目の前の
青野をドキドキしながら見つめていた。