肉月~ニクツキ35
オレンジがかった陽光が照らす
放課後の駅に隣接する百貨店。
その中にひっそりとある喫茶店。
入り口は狭いが、店内は広々。
リビングのような落ち着きと、
高級感を兼ね備えた空間だ。
その店内には一組の客しかいない。
店内の一番奥、窓際のテーブル。
窓に広がる景色は店が上層階にある為、
街を見下ろす絶景だ。
そこに、二人の太った男の子。
一人は素朴な印象で、
少し地味なほどだが、
自然な清潔感のある太目の若者。
もう一人は見るからに可愛らしく、
甘えん坊な顔をした背の低い、
ポッチャリさん。
田中悠と桜井音哉だ。
二人は何気なく談笑している。
偶然に学校で会う以外に
二人が外で会うのは初めてだった。
桜井が悠を誘ったのだ。
桜井は大きなサイズのカップに
クリームやチョコやクッキーが
大量に載っている甘いココアを
飲みながら笑顔で話している。
しかし、悠は以前とは少し違う、
桜井の雰囲気に気付いていた。
何か悩みでもあるだろうか?
そんな事を考えていると、
桜井が悠の顔を覗き込み、
上目遣いで悪戯に笑っている。
「聞いてみたいんだけどね…?田中クンは…好きな人とかいるのぉ?」
思いもよらない質問に
驚いた悠は口の中に含んでいた
少し甘いコーヒーを吹き出す寸前で
耐え、ゴクリと飲み込む。
戸惑う悠。
だが、少しの間のあとに、
「…はい。…いますよ。」
その言葉を聞いた桜井は瞳を
キラキラ輝かせながら言う。
「相手は…男の子かなぁ?」
悠はまた少し戸惑う。
だが不安はあるが正直に話そう。
そう思った。
「そ…そうです。同じクラスの…」
桜井はとても嬉しそうに
何かを言いかけたところで
店員がケーキを持ってきた。
チーズケーキフロマージュだ。
笑顔で受け取るとすぐに
スプーン差し込んで口に運ぶ。
そして店員が離れると、
すぐに悠に言う。
「じゃあ、好きな人がいるのに僕とエッチしたの?」
悠は飲みかけたコーヒーを
グラスの中にブハッと吹いた。
桜井は悪戯っぽく笑っている。
悠はテーブルに置いてある
ペーパーで慌てて口を拭き、
すぐに弁明しようとする。
「いや…、あれは…」
そこで桜井が丸い形をした
あどけなさの残る手を
ゆっくりと自分の顔の前に出す。
その手は人指し指だけが
立てられていた。
悠が動揺しながら、その手を見ると
指を横にゆっくりと振る。
「ノン…ノン…いいんだよぉ?少年の過ち…あるある。」
桜井は自分の方が子供っぽいのに
上級生だからといって妙に大人ぶりたがる。
だが、その様子が妙に嬉しそうなので
悠は慌てて弁明する必要は無いか…と、
少しラクな気分になった。
そして何となく質問してみる。
「先輩は…いるんですか?好きな人。」
その言葉を聞いた途端に、
桜井の笑顔がほんの微かに
曇ったのを悠は見逃さなかった。
外ではいつの間に降ってきた雨。
突然の夕立に無数の色の傘が咲く
交差点を、子供のように
鼻歌交じりで見下ろす桜井。
「僕の秘密の場所…ふっふっふ。大人っぽいだろぉ?」
悠は思わず苦笑いで返す。
桜井は一つ学年が下の悠から見ても
一つ一つの動作が動物や子供のように
可愛らしい。それが大人っぽいとは。
そんな事を考えていると
桜井が窓の外を眺めながら言う。
「田中クンは…好きな人とさ、…どんな感じなのぉ?」
悠はその言葉で自分と宗助との
現状を振り返る。僕達の関係…。
「ほとんど…ただのクラスメートですよ。彼は…男に興味ないから。」
「なるほどぉ…。そのパターンかぁ。つらい…よね。」
桜井が再び甘いココアを飲みながら言う。
悠は心の中で、つらいですよ、と応えた。
だが何かが心に引っかかる…
それだけじゃない、そんな気持ちだ。
そして自分の心の奥にあるものを
搾り出すように言う。
「つ、つらいですけど…なんか、それでも好きな人がいて…幸せですよ。…今は無理だけど…いつか好きって言いたいんです。」
言い切った後に悠は
こんな事を言ってまた
からかわれてしまうと後悔した。
だが、桜井は悠の顔を見つめたまま。
停止している。悠は拍子抜けして
「…あれ。…さ、桜井先輩?」
すると突然、桜井が口を開く。
「ありがと。やっぱ田中クンと話して良かった。」
悠は予想外な返答に、
さらに困惑してしまう。
だが、少し心配になって問う。
「…桜井先輩、大丈夫ですか?」
すると桜井はポッチャリ美少年の
全力スマイルを悠に送りつけ、
「ん?だいじょぶ。ちょっと…ね。
しつこい男に付きまとわれてぇ…
そんで、昔分かれた男がやっぱ好きって
いまさら気付いちゃったぁ…
ふっふっ…それだけなのだよぉ。」
悠は桜井がさらっと説明した状況を
理解するのに少し時間がかかった。
「しつこいって…ストーカーとか?」
「うーん…今のトコ、違うかなぁ…。
でも、そっちはいいの。
もうメールとか電話が来ても
無視するって決めたからぁ。」
「そ、そうですか。」
悠はそういった後に桜井に尋ねた。
「桜井先輩は…その好きな人に…好きって…言うんですか?」
桜井は大きな瞳を丸くして悠を見た。
そして少しの沈黙の後に言う。
「イイ質問だけどぉ…ふっふっ…」
そこまで話すと桜井は
中が空っぽになったグラスを
覗き込む。そして沈黙した。
悠も静かに見守っている。
桜井は静かに呟いた。
「僕にも解んないよぉ…」
泣き出しそうな顔の桜井に
悠は何と言えばいいのか
解からなかった。
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放課後の駅に隣接する百貨店。
その中にひっそりとある喫茶店。
入り口は狭いが、店内は広々。
リビングのような落ち着きと、
高級感を兼ね備えた空間だ。
その店内には一組の客しかいない。
店内の一番奥、窓際のテーブル。
窓に広がる景色は店が上層階にある為、
街を見下ろす絶景だ。
そこに、二人の太った男の子。
一人は素朴な印象で、
少し地味なほどだが、
自然な清潔感のある太目の若者。
もう一人は見るからに可愛らしく、
甘えん坊な顔をした背の低い、
ポッチャリさん。
田中悠と桜井音哉だ。
二人は何気なく談笑している。
偶然に学校で会う以外に
二人が外で会うのは初めてだった。
桜井が悠を誘ったのだ。
桜井は大きなサイズのカップに
クリームやチョコやクッキーが
大量に載っている甘いココアを
飲みながら笑顔で話している。
しかし、悠は以前とは少し違う、
桜井の雰囲気に気付いていた。
何か悩みでもあるだろうか?
そんな事を考えていると、
桜井が悠の顔を覗き込み、
上目遣いで悪戯に笑っている。
「聞いてみたいんだけどね…?田中クンは…好きな人とかいるのぉ?」
思いもよらない質問に
驚いた悠は口の中に含んでいた
少し甘いコーヒーを吹き出す寸前で
耐え、ゴクリと飲み込む。
戸惑う悠。
だが、少しの間のあとに、
「…はい。…いますよ。」
その言葉を聞いた桜井は瞳を
キラキラ輝かせながら言う。
「相手は…男の子かなぁ?」
悠はまた少し戸惑う。
だが不安はあるが正直に話そう。
そう思った。
「そ…そうです。同じクラスの…」
桜井はとても嬉しそうに
何かを言いかけたところで
店員がケーキを持ってきた。
チーズケーキフロマージュだ。
笑顔で受け取るとすぐに
スプーン差し込んで口に運ぶ。
そして店員が離れると、
すぐに悠に言う。
「じゃあ、好きな人がいるのに僕とエッチしたの?」
悠は飲みかけたコーヒーを
グラスの中にブハッと吹いた。
桜井は悪戯っぽく笑っている。
悠はテーブルに置いてある
ペーパーで慌てて口を拭き、
すぐに弁明しようとする。
「いや…、あれは…」
そこで桜井が丸い形をした
あどけなさの残る手を
ゆっくりと自分の顔の前に出す。
その手は人指し指だけが
立てられていた。
悠が動揺しながら、その手を見ると
指を横にゆっくりと振る。
「ノン…ノン…いいんだよぉ?少年の過ち…あるある。」
桜井は自分の方が子供っぽいのに
上級生だからといって妙に大人ぶりたがる。
だが、その様子が妙に嬉しそうなので
悠は慌てて弁明する必要は無いか…と、
少しラクな気分になった。
そして何となく質問してみる。
「先輩は…いるんですか?好きな人。」
その言葉を聞いた途端に、
桜井の笑顔がほんの微かに
曇ったのを悠は見逃さなかった。
外ではいつの間に降ってきた雨。
突然の夕立に無数の色の傘が咲く
交差点を、子供のように
鼻歌交じりで見下ろす桜井。
「僕の秘密の場所…ふっふっふ。大人っぽいだろぉ?」
悠は思わず苦笑いで返す。
桜井は一つ学年が下の悠から見ても
一つ一つの動作が動物や子供のように
可愛らしい。それが大人っぽいとは。
そんな事を考えていると
桜井が窓の外を眺めながら言う。
「田中クンは…好きな人とさ、…どんな感じなのぉ?」
悠はその言葉で自分と宗助との
現状を振り返る。僕達の関係…。
「ほとんど…ただのクラスメートですよ。彼は…男に興味ないから。」
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悠は心の中で、つらいですよ、と応えた。
だが何かが心に引っかかる…
それだけじゃない、そんな気持ちだ。
そして自分の心の奥にあるものを
搾り出すように言う。
「つ、つらいですけど…なんか、それでも好きな人がいて…幸せですよ。…今は無理だけど…いつか好きって言いたいんです。」
言い切った後に悠は
こんな事を言ってまた
からかわれてしまうと後悔した。
だが、桜井は悠の顔を見つめたまま。
停止している。悠は拍子抜けして
「…あれ。…さ、桜井先輩?」
すると突然、桜井が口を開く。
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「…桜井先輩、大丈夫ですか?」
すると桜井はポッチャリ美少年の
全力スマイルを悠に送りつけ、
「ん?だいじょぶ。ちょっと…ね。
しつこい男に付きまとわれてぇ…
そんで、昔分かれた男がやっぱ好きって
いまさら気付いちゃったぁ…
ふっふっ…それだけなのだよぉ。」
悠は桜井がさらっと説明した状況を
理解するのに少し時間がかかった。
「しつこいって…ストーカーとか?」
「うーん…今のトコ、違うかなぁ…。
でも、そっちはいいの。
もうメールとか電話が来ても
無視するって決めたからぁ。」
「そ、そうですか。」
悠はそういった後に桜井に尋ねた。
「桜井先輩は…その好きな人に…好きって…言うんですか?」
桜井は大きな瞳を丸くして悠を見た。
そして少しの沈黙の後に言う。
「イイ質問だけどぉ…ふっふっ…」
そこまで話すと桜井は
中が空っぽになったグラスを
覗き込む。そして沈黙した。
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