消えない傷45話
翌日も小雨がぱらつく中を、たくさんの小さな傘達が
校舎へと向かい、飲み込まれていく。
秋月は職員室の窓から、その景色を眺めている。
秋月は静かに考えていた。
一昨日(おととい)、一盛を家まで送った時に
キスをしてしまった事を一盛が誰かに話したら…
そんな不安で昨日は落ち着かない気持ちだった。
しかし結局何も起きない。一盛は今のところ
誰にも話していないようだ。…多分。
冷静に考えてみると一盛は小林先生に
あれほどの行為をされながら、
一人で抱え込んで悩んでいるようなタイプだ。
大丈夫だろう…きっと。でも、なるべく早く
もう一度、二人で会って話がしたい。
秋月はそこで一盛を思い浮かべる。
色白で背の大きな太った少年。唇は柔らかかった。
彼が慌てて降りていった後も車内には、
彼の甘酸っぱい体臭の残り香が残っていた。
衝動的にキスをしてしまった事を後悔している反面、
これまでの人生で経験した事のない程の
興奮と幸福感が少しの時間のキスにあった。
気がつくと秋月は何気なく何度も心の中で
一盛光(いちもりひかる)の名を呼ぶようになった。
「秋月先生~!!」
その声に振り返ると女子生徒たちが職員室に
数名で入ってきて、秋月のもとへと押しかける。
「すいません、先生。ここがわからないんです~。…あ、今日のネクタイはアルマーニですかぁ、お洒落~。」
凄い勢いで押し寄せてくる女子生徒達。
秋月は溜息をついてからも問題を説明していく。
職員室のよくある朝の風景。
そこに教頭が近づき、咳払いをする。
女子生徒たちは気付かないが秋月はすぐに、
「あぁ‥、君達。そろそろホームルームの時間だから‥。」
そう言って女子生徒達に教室へ戻るよう促す。
やはり朝の職員室は大人の空間で、若い女の子の
甲高い声で騒ぐ場所ではないということだろう。
職員室から出て行く女子生徒たちを見て今度は
安堵の溜息が漏れる。しかし危機は去っていない。
「秋月先生は生徒達に大人気ですな。」
教頭が言う。秋月はまたお褒めの言葉か、と
思った。だが、いつもとは違う何かを感じた。
そして案の定、教頭から思わぬ言葉が出る。
「生徒に人気があるのを見込んで、今年の修学旅行は先生に全面的に色々やってもらいますよ。期待してますからね。」
秋月はすぐに、はい、とは言えなかった。
修学旅行はもう数日で出発日だ。
既に細かいことまで各ホームルームで班を作って、
生徒が自主的にスケジュールしている。
担任でもない教師がいまさら出来る事といったら、
修学旅行当日に、生徒達の引率をする
担任教師の手伝いぐらいだ。
そこで秋月はハッと気付く。
「おぉ、わかったようですね。じゃあ修学旅行、お気をつけて。秋月先生が担当するのは先日、数学を教えてもらったクラスですよ。」
突然、そう言われて秋月は戸惑ったが仕事だし、
新人教師の自分には良い勉強になるはずと、
受け入れようと思った。だが、そこで秋月は
教頭の言葉を聞き流しかけた自分に気付く。
先日数学を教えたクラスって…
秋月の脳裏に一盛の顔が頭に浮かんだ。
一盛と修学旅行…。
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校舎へと向かい、飲み込まれていく。
秋月は職員室の窓から、その景色を眺めている。
秋月は静かに考えていた。
一昨日(おととい)、一盛を家まで送った時に
キスをしてしまった事を一盛が誰かに話したら…
そんな不安で昨日は落ち着かない気持ちだった。
しかし結局何も起きない。一盛は今のところ
誰にも話していないようだ。…多分。
冷静に考えてみると一盛は小林先生に
あれほどの行為をされながら、
一人で抱え込んで悩んでいるようなタイプだ。
大丈夫だろう…きっと。でも、なるべく早く
もう一度、二人で会って話がしたい。
秋月はそこで一盛を思い浮かべる。
色白で背の大きな太った少年。唇は柔らかかった。
彼が慌てて降りていった後も車内には、
彼の甘酸っぱい体臭の残り香が残っていた。
衝動的にキスをしてしまった事を後悔している反面、
これまでの人生で経験した事のない程の
興奮と幸福感が少しの時間のキスにあった。
気がつくと秋月は何気なく何度も心の中で
一盛光(いちもりひかる)の名を呼ぶようになった。
「秋月先生~!!」
その声に振り返ると女子生徒たちが職員室に
数名で入ってきて、秋月のもとへと押しかける。
「すいません、先生。ここがわからないんです~。…あ、今日のネクタイはアルマーニですかぁ、お洒落~。」
凄い勢いで押し寄せてくる女子生徒達。
秋月は溜息をついてからも問題を説明していく。
職員室のよくある朝の風景。
そこに教頭が近づき、咳払いをする。
女子生徒たちは気付かないが秋月はすぐに、
「あぁ‥、君達。そろそろホームルームの時間だから‥。」
そう言って女子生徒達に教室へ戻るよう促す。
やはり朝の職員室は大人の空間で、若い女の子の
甲高い声で騒ぐ場所ではないということだろう。
職員室から出て行く女子生徒たちを見て今度は
安堵の溜息が漏れる。しかし危機は去っていない。
「秋月先生は生徒達に大人気ですな。」
教頭が言う。秋月はまたお褒めの言葉か、と
思った。だが、いつもとは違う何かを感じた。
そして案の定、教頭から思わぬ言葉が出る。
「生徒に人気があるのを見込んで、今年の修学旅行は先生に全面的に色々やってもらいますよ。期待してますからね。」
秋月はすぐに、はい、とは言えなかった。
修学旅行はもう数日で出発日だ。
既に細かいことまで各ホームルームで班を作って、
生徒が自主的にスケジュールしている。
担任でもない教師がいまさら出来る事といったら、
修学旅行当日に、生徒達の引率をする
担任教師の手伝いぐらいだ。
そこで秋月はハッと気付く。
「おぉ、わかったようですね。じゃあ修学旅行、お気をつけて。秋月先生が担当するのは先日、数学を教えてもらったクラスですよ。」
突然、そう言われて秋月は戸惑ったが仕事だし、
新人教師の自分には良い勉強になるはずと、
受け入れようと思った。だが、そこで秋月は
教頭の言葉を聞き流しかけた自分に気付く。
先日数学を教えたクラスって…
秋月の脳裏に一盛の顔が頭に浮かんだ。
一盛と修学旅行…。
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