ニクツキ55
翌日の放課後。
田中悠と青野啓、そして桜井音哉の3人が、
相撲部の部室に集まっていた。
桜井が子供のような容姿に似合わない、
申し訳なさそうな顔をして、言う。
「ほんと、ごめんねぇ。二人に、わざわざ来てもらっちゃってぇ。」
すると悠が自分の柔らかそうな丸い頬を
ポリポリと指先で掻き、照れ臭そうに言う。
「気にしないでください、僕たちが自分で言い出したんですから。」
その言葉を聞いた、隣の青野が、
複雑な笑み浮かべて、考える。
【今更だけど、大丈夫かな、嫌な予感がするんだけど‥‥うーん……まぁ、いざとなったら……】
青野はそこで思考を止め、
やれやれ、と言った表情で言う。
「そう、僕たちが言い出したんだから‥‥気にしないでください。」
すると桜井と悠は、二人そろって
満面の笑みを青野に見せてくれる。
「青野くんって、凄くいい人だねぇ。」
桜井が言うなり、悠も力強く頷き、
「そう、青野君は、ほんとにいい人なんです!」
悠と桜井の瞳が輝いているのを見た
青野は苦笑するしかなかった。
そして青野が大きく溜息をついた、
その時。
相撲部のドアが開く。
中にいた3人が一斉にドアに
視線を向ける。
悠は、自分の鼓動が早くなるのを感じた。
視線が集まる中、開いたドアから
部室に入ってきたのは、
大きく太った、背の低い生徒、篠原だ。
「こ、こんにちは‥‥。」
篠原は部室内にいた3人に
頭を下げながら、緊張気味に挨拶する。
「‥こんにちわぁ。えっと‥篠原くんだよねぇ。今日は一人なのぉ?」
桜井が尋ねると篠原が頷きながら答える。
「はい、池田くんに先に行ってろって言われて。…あの‥‥昨日は…その……」
途切れ途切れに話そうとする篠原。
桜井は、まだ池田が来ていない事に
安堵した。そして篠原が話そうとしているのは昨日の、池田との事だと分かった。
そして言う。
「あ、い…いいよぉ、その事ならぁ。池田に無理やりされたんでしょぉ?」
すると篠原は恥ずかしそうに、
頬を紅くしながら黙ってしまう。
桜井は気になった事を聞いてみた。
「篠原クンは、池田の事、どぉー思っているのぉ?」
思わぬ質問だったのか、
篠原が戸惑いながら答える。
「え、えっと…乱暴な人だなって思います…。でも‥僕なんか誰からも相手にされないし、クラスでもイジメられてるし‥‥け、けど池田君が、強かったらイジメられないから、相撲部に入れって言ってくれて。自分に声をかけてくれる人なんていないから、僕‥‥なんか嬉しくて。」
そう言いながら、
小さく照れ笑いをする篠原。
桜井は妙な事を聞いてしまったと、
微妙な気持ちになった。
その時、再び部室のドアが開く。
篠原の話で、緊張がほぐれていた空気が、
一気に張りつめていく。
ドアから入ってきたのは池田。
室内を見渡し、悠と青野を見つけるなり、
警戒気味に言う。
「‥‥あれ?オマエら、何?」
青野が何かを言いかけるよりも早く、
田中悠が唐突に話し始める。
「桜井先輩が困っているから、もう相撲部で変な事をするのを止めて欲しいんだ。」
池田は少し面を食らった様だが、
すぐに落ち着きを取り戻し、
悠を見下ろしながら言う。
「嫌だね。なんでお前にそんな事を言われなきゃならねぇんだよ。ん…あれ、お前はたしか……」
池田は悠の顔に見覚えがあることに
気がついた。以前に悪友である佐伯と
公園でイタズラした生徒だ。
「 随分と威勢がいいが… 何だ、あの時のヤツか。」
そう言いながらニヤリと笑う池田。
その様子を悠の背後から黙って
見ている青野と、心配そうな桜井。
「池田、もう悪い事は……」
さらに悠が池田を説得しようと
話している、その途中。
悠の目線ほどの高さに上げた手を、
左右に振り、悠の話を遮る池田。
「お前らの言いたいことは分かった。……良いだろう。もう相撲部では何もしない。」
その意外な程、呆気ない池田の言葉に、
青野は自分の耳を疑った。
【そんなに簡単に……?】
その青野の予想は当たってしまう。
池田が言う。
「でもタダでってのは無理だなぁ……。お前らが、俺の言うとおりにしたら、考えてやるよ。」
田中悠と青野啓、そして桜井音哉の3人が、
相撲部の部室に集まっていた。
桜井が子供のような容姿に似合わない、
申し訳なさそうな顔をして、言う。
「ほんと、ごめんねぇ。二人に、わざわざ来てもらっちゃってぇ。」
すると悠が自分の柔らかそうな丸い頬を
ポリポリと指先で掻き、照れ臭そうに言う。
「気にしないでください、僕たちが自分で言い出したんですから。」
その言葉を聞いた、隣の青野が、
複雑な笑み浮かべて、考える。
【今更だけど、大丈夫かな、嫌な予感がするんだけど‥‥うーん……まぁ、いざとなったら……】
青野はそこで思考を止め、
やれやれ、と言った表情で言う。
「そう、僕たちが言い出したんだから‥‥気にしないでください。」
すると桜井と悠は、二人そろって
満面の笑みを青野に見せてくれる。
「青野くんって、凄くいい人だねぇ。」
桜井が言うなり、悠も力強く頷き、
「そう、青野君は、ほんとにいい人なんです!」
悠と桜井の瞳が輝いているのを見た
青野は苦笑するしかなかった。
そして青野が大きく溜息をついた、
その時。
相撲部のドアが開く。
中にいた3人が一斉にドアに
視線を向ける。
悠は、自分の鼓動が早くなるのを感じた。
視線が集まる中、開いたドアから
部室に入ってきたのは、
大きく太った、背の低い生徒、篠原だ。
「こ、こんにちは‥‥。」
篠原は部室内にいた3人に
頭を下げながら、緊張気味に挨拶する。
「‥こんにちわぁ。えっと‥篠原くんだよねぇ。今日は一人なのぉ?」
桜井が尋ねると篠原が頷きながら答える。
「はい、池田くんに先に行ってろって言われて。…あの‥‥昨日は…その……」
途切れ途切れに話そうとする篠原。
桜井は、まだ池田が来ていない事に
安堵した。そして篠原が話そうとしているのは昨日の、池田との事だと分かった。
そして言う。
「あ、い…いいよぉ、その事ならぁ。池田に無理やりされたんでしょぉ?」
すると篠原は恥ずかしそうに、
頬を紅くしながら黙ってしまう。
桜井は気になった事を聞いてみた。
「篠原クンは、池田の事、どぉー思っているのぉ?」
思わぬ質問だったのか、
篠原が戸惑いながら答える。
「え、えっと…乱暴な人だなって思います…。でも‥僕なんか誰からも相手にされないし、クラスでもイジメられてるし‥‥け、けど池田君が、強かったらイジメられないから、相撲部に入れって言ってくれて。自分に声をかけてくれる人なんていないから、僕‥‥なんか嬉しくて。」
そう言いながら、
小さく照れ笑いをする篠原。
桜井は妙な事を聞いてしまったと、
微妙な気持ちになった。
その時、再び部室のドアが開く。
篠原の話で、緊張がほぐれていた空気が、
一気に張りつめていく。
ドアから入ってきたのは池田。
室内を見渡し、悠と青野を見つけるなり、
警戒気味に言う。
「‥‥あれ?オマエら、何?」
青野が何かを言いかけるよりも早く、
田中悠が唐突に話し始める。
「桜井先輩が困っているから、もう相撲部で変な事をするのを止めて欲しいんだ。」
池田は少し面を食らった様だが、
すぐに落ち着きを取り戻し、
悠を見下ろしながら言う。
「嫌だね。なんでお前にそんな事を言われなきゃならねぇんだよ。ん…あれ、お前はたしか……」
池田は悠の顔に見覚えがあることに
気がついた。以前に悪友である佐伯と
公園でイタズラした生徒だ。
「 随分と威勢がいいが… 何だ、あの時のヤツか。」
そう言いながらニヤリと笑う池田。
その様子を悠の背後から黙って
見ている青野と、心配そうな桜井。
「池田、もう悪い事は……」
さらに悠が池田を説得しようと
話している、その途中。
悠の目線ほどの高さに上げた手を、
左右に振り、悠の話を遮る池田。
「お前らの言いたいことは分かった。……良いだろう。もう相撲部では何もしない。」
その意外な程、呆気ない池田の言葉に、
青野は自分の耳を疑った。
【そんなに簡単に……?】
その青野の予想は当たってしまう。
池田が言う。
「でもタダでってのは無理だなぁ……。お前らが、俺の言うとおりにしたら、考えてやるよ。」