金豚の肉6
リン君が不登校だった事は驚きだったが、
学校生活に馴染めない事もあるだろうし
僕は気にしないでおこう、そう思った。
初日の勤務が終わり、錆びたシャッターが
いくつも降りたままの古い町を抜けて、
宿泊している古い旅館に帰った。
小林旅館だ。
入り口は結霜ガラスとすりガラスを
組み合わせた木製の古くさい引き戸。
近づくとちょうど玄関近くに人が
いるのが見えた。
女性らしい丸み・・・を通り越して
ふくよかでしっかりしたシルエット。
女将さんだ。
向こうもこちらに気づいたようだ。
大きな体から大き過ぎる声が発せられる。
「あら〜!お帰りなさい!!
今、お部屋にお食事お持ちしますね〜!!」
人の良さそうな笑顔だ。
頭を下げて感謝を伝えて、
僕は玄関を上がり階段を目指す。
古い日本家屋によくある急な階段。
2階に上がって自分が宿泊している部屋へ。
ほどなくして女将が食事を運んでくれた。
黒く光る漆器たちを並べていく女将。
刺身や焼き魚、煮物や惣菜がいくつか。
最後にお櫃を置いて、大きな声で
「ご飯はお好きなだけ召し上がってくださいねぇ!足りなかったらまた言ってください。
では、またしばらくしたら食器下げにきます。」
そう言って両手でゆっくりと
戸を閉めて部屋から出ていった。
僕は早速、食事に手をつけたが、
どれも美味しい。
古くさい旅館だが食事は素晴らしい。
食事を済ませて少し休んでいると
突然、カタっと音がして、
部屋の引き戸が少し開いた。
開いた隙間を見ると、
リン君の糸目と、ムチムチした褐色の肌。
白いシャツと茶色のハーフパンツ。
こちらの様子を伺っているようだ。
「・・・お皿片付けにきたんだ。」
そうか、リン君はお手伝いで来たのか。
僕は食べ終えた食器たちを盆に
載せようとしたがリン君が部屋に
入ってきて僕を止める。
「お客さんはやらなくていいんだ。」
そう言うと手慣れた動きで片付け、
盆を持って部屋を出て行く。
帰ってしまうのか・・・
そう思った時にどうしてだろう、
僕は胸のあたりがチクリとした。
だが、部屋の戸を閉めるときに
リン君がこちらを見て、
「また後で来ていいか?」
とちょっと恥ずかしそうに
聞いてくれた時には嬉しかった。
「待ってるよ。」
僕がそういうとリン君も、
嬉しそうに笑ってくれた。
しばらくして、僕の部屋に戻ってきた
リン君の手には金色っぽい人形があった。
よく見ると中国っぽいデザインの豚だ。
ソフトビニールか何かで出来ているのか。
僕が人形を見ている事に気づいたリン君が
「風水?で幸運になるとか言って。
母ちゃんがくれたんだ。オラに。」
なるほど。たしかに縁起物っぽい。
僕は尋ねた。
「それで、幸運にはなれたの?」
リン君はこちらを見て
ニヤっと笑い、
「うん、なれたな。
白鳥さんと会えたから。」
そう言って僕の口元でキスをねだる
しぐさをする。
僕はリン君の豊満な身体を
優しく抱き寄せてキスをした。
すぐにどちらからともなく舌を絡める。
唾液が音を立てて混ざり合う。
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